トランジスタが回路に必要不可欠な存在だということは、本記事をお読みの方ならご存じでしょう。
- 聞いたことはあるけど、どう設計したらいいかわからない・・・
- いつも自作キットを購入して自作しているから、そろそろ自分で設計してみたい!
- 回路設計者じゃないけど設計の仕方は知っておきたい
「ホントはトランジスタ回路を設計できるようになりたいけど、なかなか・・・」というのが皆さんの置かれた状況ではないでしょうか。
私自身ソフトウェアエンジニアですし、専門分野ではないということもあり、皆さんと同じ状況でした。
しかし、そんな私でも現在はトランジスタ回路を自作できるまでになりましたので、本記事をご覧いただいている方もきっと設計できるようになると思います。
トランジスタの種類

トランジスタには多くの種類があります。中でも頻出なのが『バイポーラトランジスタ』、『IGBT』、『MOSFET』ではないかと思います。
それぞれ、バイポーラトランジスタは制御回路系に、IGBTはパワートレイン系に、MOSFETに至っては技術の進歩により制御回路系とパワートレイン系の両方で主に利用されています。

電車や自動車といったパワートレイン系のインバータでは、MOSFETかIGBTが近年定番ですよね。
本記事では、バイポーラトランジスタに焦点を当てて回路設計を行います。
バイポーラトランジスタの特性

バイポーラトランジスタには、『コレクタ電流(IC)ーコレクタ-エミッタ間電圧(VCE)』の特性で見られる3つの特性領域があります。
遮断領域 | IB=0でVCEの大小によらずほとんどICが流れない領域 |
活性領域 | IBを一定にした場合、VCEの大小によらずICがほぼ一定になる領域 |
飽和領域 | VCEが小さくてもICがたくさん流れる領域 IBが大きければ大きいほどICはたくさん流れやすくなる |
バイポーラトランジスタの主な用途


バイポーラトランジスタの主な用途は、『増幅』と『スイッチング』です。
増幅用途では入力信号の電圧を大きくすることができ、スイッチング用途では小電力で通電のON/OFFを切り替えたりすることができます。
増幅用途で使用する特性領域

増幅用途で使用する際は、活性領域を使用します。
VB=vi+VBBとなる入力電圧VBを入力すると、トランジスタのVBE-IC特性より同じ位相のコレクタ電流ICが流れます。
次に、VCE-IC特性上に負荷線を引きます。回路の動作点はこの負荷線上になるため、先ほどのコレクタ電流ICが流れる場合、図のようなコレクタ-エミッタ間電圧VCE(=Vo)になります。これを入力電圧VBと比べてみると、位相が180°ズレた波形(逆相)になっています。
この回路は『エミッタ接地増幅回路』と呼ばれ、抵抗値などを調整することで電圧・電流のいずれも増幅させることができます。
「ICが最大限流れる場合」と「流れない(0A)場合」の2点を結ぶ線を、コレクタ-エミッタ間電圧VCEとコレクタ電流ICの特性に重ねることで、この回路の動作点をわかりやすく可視化したものです。
ICが最大限流れるのはIC=VCC/RCとなるときですし、その反対に、流れないのはVCE=VCCであるときということになります。ただし、実際の回路ではこれらの値には近づくものの、厳密にはVCEの飽和電圧など様々な要因で完全にこれらの値にはなりません。
スイッチング用途で使用する特性領域

スイッチング用途で使用する際は、飽和領域と遮断領域を使用します。
スイッチOFF状態にしたい場合は、入力電圧を0V、ベース電流IB=0にして遮断領域を使います。すると、コレクタ電流ICもほとんど流れない(※)のでLEDは点灯しません。
一方、スイッチONにしたい場合は、ベース電流IB、コレクタ電流ICをたくさん流して飽和領域を使います。すると、コレクタ電流ICが流れてLEDが点灯します。
※ ベース電流IB=0でもわずかにコレクタ電流ICが流れます。これをコレクタ遮断電流といいます。
回路の設計方法
より実際のエミッタ接地増幅回路に近づけるため、温度による特性変化や特性の個体ばらつきの影響を減らすためのエミッタ抵抗を接続しています。

パイポーラトランジスタを用いた増幅回路として、定番の『エミッタ接地増幅回路』を設計します。
電圧ゲイン | 10 倍 |
最大出力電圧 | 5 Vp-p |
トランジスタ | 2SC1815 GR |
出力電圧が5 Vp-p(電圧の交流成分の最大振幅が5 V)なので、それ以上の電源電圧にする必要があります。ここではマージン含め、よく使われる15 Vにします。
トランジスタは、入力される電流の交流成分の周波数が高くなると電流増幅率hFEが急激に下がり、電流を増幅することができなくなります。この周波数をトランジション周波数fTと言います。
このトランジション周波数fTは一定というわけではなく、コレクタ電流ICの通電量によって変化します(下図参照)。
より高い周波数(例えば300 MHz)まで増幅させたいのであれば、コレクタ電流IC=50 mAとする必要があります。しかし、ここではkHz帯の周波数が入力されると仮定して話を進めていきますので、どのようなコレクタ電流であっても問題なく増幅することができます。したがって、トランシジョン周波数fTの考慮は不要になります。
コレクタ電流ICは絶対定格以下であればいいので、コレクタ電流IC=5 mAに設定することにします。

コレクタ抵抗とエミッタ抵抗の比率の決定
エミッタ接地増幅回路の電圧増幅率Avは\( A_v = \frac{R_C}{R_E} \)で表される(詳細説明は下記参照)ので、電圧ゲインを10倍にするために、
\begin{eqnarray}
& A_v = \frac{R_C}{R_E} = 10 \\[10pt]
& \Rightarrow R_C : R_E = 10 : 1
\end{eqnarray}
といった比率にする必要があります。
トランジスタのベース(B)ーエミッタ(E)間に存在するPN接合は、バイアス電圧をかけてON状態で使用しているため、このような条件ではベースーエミッタ間電圧VBEの交流成分は何も変化なく素通りします。そのため、入力電圧viがそのままエミッタ抵抗にかかると考えても問題ありません。
したがって、エミッタ電流IEの交流成分ieは、
\begin{eqnarray}
i_e = \frac{v_i}{R_E}
\end{eqnarray}
と表すことができます。
また、VCの交流成分vcは、コレクタ電流ICの交流成分icから、
\begin{eqnarray}
v_c = i_c \cdot R_C
\end{eqnarray}
と表すことができます。
ここで、コレクタ電流icに対しベース電流ibが十分小さいことから、ie=ic+ibはie=icと近似することができます。
すると、
\begin{eqnarray}
v_c = i_c \cdot R_C = i_e \cdot R_C = \frac{v_i}{R_E} \cdot R_C
\end{eqnarray}
となります。
そして、出力電圧voは、コンデンサCでVCの直流成分をカットしたもの、つまりvcなので、
\begin{eqnarray}
v_o = v_c = \frac{v_i}{R_E} \cdot R_C
\end{eqnarray}
と表すことができます。
入力電圧viと出力電圧voの電圧増幅率をAvとすると、
\begin{eqnarray}
A_v = \frac{v_o}{v_i} = \frac{v_i}{R_E} \cdot R_C \cdot \frac{1}{v_i} =\frac{R_C}{R_E}
\end{eqnarray}
となります。
エミッタ抵抗の決定
エミッタにかかる電圧VREはだいたい1.0 V以上は流す必要がありますので、ここではVRE=2.0 Vとします。
これに加えて、コレクタ電流IC=5 mAと決めましたので、エミッタ抵抗REは、
\begin{eqnarray}
R_E = \frac{V_{RE}}{I_E} = \frac{V_{RE}}{I_C} = \frac{2.0\ \rm{V}}{5\ \rm{mA}} = 400\ \rm{\Omega}
\end{eqnarray}
となります。

エミッタ抵抗REが挿入されることで、上図のようにVBーIC特性の傾斜が緩やかになります。こうすることによる恩恵がいくつかあります。
バイアス電圧の温度変化に強くなる

万が一、発熱が原因でバイアス回路の抵抗値が変化し、バイアス電圧が変わってしまっても、コレクタ電流ICへの影響が少なく済みます。
トランジスタ特性の温度変化に強くなる
トランジスタは、高温になるにつれてVBEーIC特性が変化します。すると、同じ入力電圧VBでも常温時と高温時でコレクタ電流ICに大きな違いが出てしまいます(上記左図)。
しかし、エミッタ抵抗がある場合、傾きが寝て緩やかになり直線的な特性になるため、温度変化によるコレクタ電流ICへの影響が小さくなります。
VBE―IC特性が変化し始めるのはVBE=0.6 Vくらいなので、エミッタ電圧VREが同等かそれ以上あれば、ちゃんと直線的な特性領域が出そうです。
このことから、エミッタ抵抗の電圧VREを2~3倍は確保するために2.0 Vに設定しています。
コレクタ抵抗の決定
コレクタの抵抗RCは、エミッタ抵抗REの10倍の値にする必要がありますので、
\begin{eqnarray}
R_C = 10 \cdot R_E = 4.0\ \rm{k\Omega}
\end{eqnarray}
となります。
コレクタ電流IC=5.0 mA流す予定なので、データシートから読み取るとhFE=300となります。
すると、
\begin{eqnarray}
I_B = \frac{5.0\ \rm{mA}}{300} \simeq 0.0167\ \rm{mA}
\end{eqnarray}
より、ベース電流IB=0.0167 mAとなります。
ベース電流IBとして0.0167 mA流すとなると、バイアス回路に流れる電流はこれよりも十分大きな電流(概ね10倍以上)を流さないと分圧に影響してしまいます。そのため、0.1 mA以上はバイアス回路に電流を流します。
また、エミッタ抵抗REの電圧VRE=2.0 V、VBE=0.6 Vより、ベースの電圧VB=2.6 Vにする必要があります。ということは、バイアス回路の下段は2.6 V、上段は12.4 Vということになります。
したがって、
\begin{eqnarray}
R_{B1} &= \frac{12.4\ \rm{V}}{0.1\ \rm{mA}} = 124\ \rm{k\Omega} \\[10pt]
R_{B2} &= \frac{2.6\ \rm{V}}{0.1\ \rm{mA}} = 26\ \rm{k\Omega}
\end{eqnarray}
となり、これにもっとも近いE24系列の抵抗値は上段抵抗R1=130 kΩ、下段抵抗R2=27 kΩとなります。

設計の結果、以下のような回路になりました。


バイポーラトランジスタを用いたスイッチング回路として、『LEDを点灯させるスイッチング回路』を設計します。
LED | 3mm赤色LED OS5RKA3131A |
トランジスタ | 2SC1815 GR |
電源電圧は、制御回路でよく使う5Vにします。
LEDの通電量IF=20 mAに設定しましたので、直列に繋がるLEDのコレクタ電流も必然的に20 mAになります。
次に、トランジスタは飽和状態で使用するので、コレクターエミッタ間電圧VCE(sat)は、データシートからVCE(sat)=0.05 Vになります。
すると、
\begin{eqnarray}
&V_{CC} = I_C \cdot R_C + V_F + V_{CE(sat)} \\[10pt]
& 5 \rm{V} = 20 \rm{mA} \cdot R_C + 2.1 \rm{V} + 0.05 \rm{V} \\[10pt]
&\Rightarrow R_C = \frac{5 – 2.1 – 0.05 \rm{V}}{20 \rm{mA}} = 142.5 \rm{\Omega}
\end{eqnarray}
より、E24系列でコレクタ抵抗RC=150 Ωとします。

コレクタ電流ICが20 mA流れるときに電流増幅率hFE=150なので、
\begin{eqnarray}
I_B = \frac{I_C}{h_{FE}} = \frac{20 \rm{mA}}{150} \simeq 0.13 \rm{mA}
\end{eqnarray}
より、ベース電流IB=0.13 mAとなります。
これでも良さそうですが、確実に飽和領域で動作させる必要があるため、この3倍のベース電流を流します。これをオーバードライブと言います。したがって、ベース電流IB=0.13×3=0.39 mAとなります。
トランジスタのベース(B)ーエミッタ(E)間はPN接合(いわゆるダイオード)になっているため、電流が流れたときには0.6 V程度電圧降下します(VBE=0.6 V)。
したがって、図のようにマイコンの5V出力VINがベース(B)に繋がっているとすると、
\begin{eqnarray}
&V_{IN}=I_B \cdot R_B + V_{BE} \\[10pt]
&R_B=\frac{V_{IN}-V_{BE}}{I_B} = \frac{5.0 – 0.6 \rm{V}}{0.39 \rm{mA}} \simeq 11.3 \rm{k \Omega}
\end{eqnarray}
より、E24系列でベース抵抗RB=11 kΩとします。
設計した結果、以下のような回路になりました。
