【誰でもわかる】無安定マルチバイブレーター[実装編]
別の記事で無安定マルチバイブレーターの動作解説と設計を行いました。
そこで、本記事ではSPICEでのシミュレーションと、ユニバーサル基板への実装を行っていきます。
実装する前にシミュレーションで粗を削っておくのは、フロントローディング実現の観点からも重要なことです。
SPICEってなに?
SPICEとは、Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis(集積回路用シミュレーションプログラム)の略で、いわゆる受動素子(抵抗やコンデンサなど)や能動素子(トランジスタやオペアンプなど)からなる電子回路の解析を行うことができる回路シミュレーターのことです。
その中でも、私の職場を含め多くの開発チームで使用されているものの一つがLTSPICEでしょう。
LTSPICEは、現在ANALOG DEVICES社がWeb上で無償提供しているSPICEシミュレーターで、使用に際してノード数などの制限も特にないので、誰でも最大限の機能を使うことができる回路シミュレーターです。
本記事でも例に漏れずLTSPICEを使い、別記事で設計した無安定マルチバイブレーターがどのような動きになるのか見てみます。
回路シミュレーションしてみよう
無安定マルチバイブレータの回路図を以下のように作りました。
…と言っても設計通りにポンポン部品を置いていくだけですね。
この回路図のシミュレーションを回すと以下のような波形が出てきました。LEDの点滅周期は1.3秒くらいになっているので、大体狙い通りになっていますね。
しかし、気になるところとして、VBE1(VBE2)の電圧下限が約-7.8Vくらいになっています。これは、9Vからダイオードの順方向電圧降下とトランジスタのベース-エミッタ間電圧を差し引いた分がコンデンサの両端にかかっているからです。
例えば、Q2がターンオンしている場合、
\begin{eqnarray}
V_{C1} &=& 9.0 – V_{R1} – V_{D1} – V_{BE2} \\
&\simeq & 7.8\ {\rm V}
\end{eqnarray}
の電圧がコンデンサC1の両端にかかっています。この式のうち、VD1はLED D1の順方向電圧ですので、普通に10mAくらい電流が流れれば1~2Vにはなるのですが、この状態で流れているのは”微小電流”ですので約0.5Vくらいになっています。
このような状態で、今度はQ1がターンオンするので+側が0V付近まで落ち、VBE2が約-7.8Vになるというわけです。
結果として、点滅周期も大体狙い通りですし、シミュレーション波形も想定通りの動きをしてくれているので特に問題なさそうですね。
回路シミュレーターで波形をみると勉強になるね。
実際に評価基板をつくってみる
LTSPICEでシミュレーションした回路を実際に作ってみます。
なお、部品点数が少ない回路なので、今回はユニバーサル基板に部品を実装していくことにします。そのままユニバーサル基板に実装していってもいいのですが、Fritzingという回路設計ツールに配線図を書く機能がありますので、こちらで見当をつけてから実装していきます。
Fritzingでブレッドボード図、回路図、PCBレイアウトを作成することができるので、評価~基板メーカーへの製造依頼までこれ一つで完結できます。
この配線図を参考に、実際に評価基板を作製してみました。
では、作製した基板にいよいよ火入れをしていきます…。
ちゃんと動きました!やっぱり作って最初の火入れのときはドキドキしますね!
最後に、オシロスコープでトランジスタ周りの波形も確認してみます。
見たところ、周期は1.4秒くらいなのでシミュレーションと同じくらいになってますね。
しかし、VBE1とVBE2の下限が約-6.2Vと、シミュレーションよりもさらに電圧高めでした。詳しく調べれば原因がわかりそうですが……まぁ評価基板なのでこんなもんでヨシとします。
まとめ
最後は少しムリヤリまとめた感はありましたが、だいたい設計通りの動きをしてくれてよかったです。
ただ、無安定マルチバイブレータの周期をバッチリ意図通りに合わそうとすると、抵抗やコンデンサ等の設定をかなりシビアにしないとダメそうなので、発振回路として使用する際には注意が必要です。
これを踏まえてしっかり設計できれば、コスパのよい発振回路が出来上がるでしょう。