回路
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【誰でもわかる】双安定マルチバイブレーター

kinketsu
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本記事では双安定マルチバイブレーターを設計してみます。

別記事では非安定マルチバイブレーターについても設計しているのでよければそちらもご参照ください。

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双安定マルチバイブレーターの使いどころ

双安定マルチバイブレータは2つの状態を保持することができますので、かねてよりフリップフロップ回路として使用されてきました。

例えば、R端子とS端子を設けてRSフリップフロップとして使用するなどです。

さらに、2つの状態を保持することができる特徴を利用して、電子スイッチとして活用されることもあります。

特にギターエフェクターの分野においては、多用される機械スイッチと比べ、切替時のポップノイズが発生しにくいといったメリットがあります。

金欠ぱとろん
金欠ぱとろん

某B社のエフェクターには双安定マルチバイブレータを用いたフリップフロップ回路が利用されていたりします。

ということで、今回は双安定マルチバイブレータを利用した電子スイッチ回路を作ってみます。

2

電子スイッチ回路を設計する

回路構成

今回は以下のような回路構成にしてみました。なお、電源には9Vの電圧が入力されます。

この回路の動き

SW(スイッチ)をオンする度に\(Q\)および\(\bar{Q}\)の論理が反転します。そして、次にまたSWがオンされるまでその論理を保持し続けます。もし、\(Q\)に電圧がかかっていればトランジスタQ3がターンオンしてLEDが光ります。

Q
詳しい挙動解説はこちら

LEDオフ(回路は安定状態)

電源を入れたらトランジスタQ1かQ2のいずれかがターンオンします。(例えば、抵抗R1とR4の定数をイジることで、初回はどちらかのトランジスタを意図的にターンオンさせることもできます。)今回はトランジスタQ2がターンオンしているものとします。

このとき、点bの\(Q\)は\(0V\)になりますので、トランジスタQ3に電流は流れずLEDはオフとなります。

さらに、\(Q\)が\(0V\)ということは、トランジスタQ1のベース電流が流れないのでQ1はターンオフとなります。

すると、点aからはダイオードD2、抵抗R6、トランジスタQ2のベースにわずかに電流が流れるだけなので、\(\bar{Q}\)の電圧はそこまで変わらず\(9V\)くらいになります。

トランジスタQ1がターンオフしている、かつ点gが\(9V\)であることから、点eも\(9V\)になります。すると点e,gがともに\(9V\)になるのでコンデンサC1に電荷はほぼ充電されません。

一方、点dからダイオードD2、抵抗R8、トランジスタQ2を通ってわずかに電流が流れる関係で、点fの電圧は0.3Vくらいになります。よって、点g側に正の電荷が充電されます。

SWオン(回路は過渡状態)

SWをオンすると点gが\(0V\)になります。

コンデンサC2はもともと点g側に正の電荷が充電されていたので、点fの電圧が\(-9V\)まで一気に下がります。

すると、点dはダイオードD2の電圧降下の影響で\(-8.3V\)くらいになります。

この時点でトランジスタQ2はベース電流が流せなくなってしまうのでターンオフします。

トランジスタQ2のターンオフによって、今度は点b、点cを経由しトランジスタQ1のベースに電流が流れるので、トランジスタQ1がターンオンします。なお、点bの電圧\(V_{Q1}\)は、以下の式で概算できます。

\begin{eqnarray}
V_{Q1}=\frac{9V \times R_8 + (-9V) \times R_4}{R_4+R_8}
\end{eqnarray}

ここで、\(V_{Q1}\)の大きさによっては、トランジスタQ3がターンオンしてLEDが点灯することもあります。(ベース電流が十分流れれば。)

また、トランジスタQ1のベース-エミッタ間の電圧は\(0.7V\)くらいなので点cもだいたい\(0.7V\)くらいになります。

この点cからは、ダイオードD1、抵抗R7、トランジスタQ1を通ってわずかに電流が流れていくので、点eの電圧は\(0.3V\)くらいになります。

LEDオン(回路は安定状態)

SWをオフにすると、点gの電圧は\(9V\)に戻り、点fの電圧も一旦\(0V\)付近まで戻ります。

ここから時間が経過するにしたがって、コンデンサC2に電荷が充電されるので点fの電圧が\(9V\)くらいまで上昇していきます。

点fの電圧が上昇すれば点bの電圧も上がっていくので、(この時点までまだターンオンしていなければ)トランジスタQ3がそのうちターンオンしてLEDが点灯します。

一方、点eの電圧については、SWをオフにすると一時的に\(9V\)くらいに跳ね上がりますが、すぐに抵抗R7、トランジスタQ1を通って電流が流れていくので、またすぐに\(0.3V\)くらいに落ち着きます。

これで、最初の(LEDオフの)状態から見ると完全に左右が反転した状態になっています。

そして、SWが再度オンされれば、同様の動作でまた左右が反転します。

回路定数

今回のスイッチ回路では、回路定数を以下のようにしました。

各素子の定数一覧
R11 kΩ 1/4W
R220 kΩ 1/4W
R320 kΩ 1/4W
R41 kΩ 1/4W
R510 kΩ 1/4W
R610 kΩ 1/4W
R710 kΩ 1/4W
R810 kΩ 1/4W
R910 kΩ 1/4W
R1027 kΩ 1/4W
R11680 Ω 1/4W
C10.1 uF 16V
C20.1 uF 16V
D11N4148
D21N4148
LED3mm LED OS5RKA3131A
Q12SC1815
Q22SC1815
Q32SC1815

回路設計

LED選定

秋月電子通商さんで取り扱いのある3mm LED『OS5RKA3131A』を使用します。どんなLEDを使用しても問題ありません。

トランジスタ選定

トランジスタQ1~Q3はともに2SC1815を使用します。

Q3のコレクタ電流の設定

トランジスタQ3のコレクタ電流はLEDを点灯させることができる程度流せればいいので10mAにします。このときのコレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)は、データシートより最小0.035V(@-25℃)となります。

さらに、LEDの順方向電圧VFはデータシートより1.95V(@10mA)となります。

Q3のベース電流の設定

2SC1815のデータシートからIC-hFE特性を見ると、コレクタ電流IC=10mAに対し最小でhFE=100(@-25℃)なので、コレクタ電流をIC、ベース電流をIB、直流電流増幅率をhFEとおくと、

\begin{eqnarray}
I_B &=& 3\times \frac{I_C}{h_{FE}} \\
&=& 3\times \frac{10\ {\rm mA}}{100} \\
&=& 0.3\ {\rm mA}
\end{eqnarray}

となるので、ベース電流IB=0.3mAにします。

抵抗R11の設定

R11は、LEDの電圧降下をVF、コレクタ-エミッタ間飽和電圧をVCE(sat)とすると、

\begin{eqnarray}
R11 &=& \frac{9.0\ {\rm V}-V_{CE(sat)}-V_F}{10\ {\rm mA}} \\
&=& \frac{9.0\ {\rm V}-0.035\ {\rm V}-1.95\ {\rm V}}{10\ {\rm mA}} \\
&=& 701.5\ \Omega
\end{eqnarray}

となるので、E24系列で最も近い680Ωを使用することにします。

また、消費電力は\(P_{R1}=(0.01\ {\rm A})^2\times 680\ \Omega=68\ {\rm mW}\)なので1/4Wのもので十分です。

抵抗R4の設定

トランジスタQ2がターンオンした時のコレクタ電流についてもIC=10mAに設定します。なお、トランジスタQ2がターンオンした場合は、抵抗R4は以下の式で概算できます。

\begin{eqnarray}
R4 &=& \frac{9.0\ {\rm V}-V_{CE(sat)}}{10\ {\rm mA}} \
&=& \frac{9.0\ {\rm V}-0.035\ {\rm V}}{10\ {\rm mA}} \
&=& 896.5\ \Omega
\end{eqnarray}

となるのですが、近い値の1kΩを使用することにします。

Q2のベース電流を設定

STEP3と同様の計算でベース電流を計算します。

\begin{eqnarray}
I_B &=& 3\times \frac{I_C}{h_{FE}} \\
&=& 3\times \frac{10\ {\rm mA}}{100} \\
&=& 0.3\ {\rm mA}
\end{eqnarray}

となるので、ベース電流IB=0.3mAにします。

抵抗R6の設定

Q2の前段にある抵抗R6はノイズとなる電流を遮断するためのもので、R6=10kΩに設定しました。Q2ターンオン時にはこの抵抗に0.7Vがかかるので、\(I_{R6}=0.7 \ {\rm V} \div 10\ k\Omega = 0.07\ {\rm mA}\)が流れます。

また、消費電力は\(P_{R6}=(0.07\ {\rm mA})^2\times 10\ k\Omega=0.049\ {\rm mW}\)なので1/4Wのもので十分です。

ダイオードD2の設定

ダイオードは定番の1N4148を使用します。このダイオードD2には定常的に微小な電流しか流れないのですが、この時に順方向電圧がトランジスタQ2のVBE(ベースーエミッタ間電圧)よりも大きくならないものを選択しています。

トランジスタQ2がターンオンしているとき、ダイオードD2、抵抗R8、トランジスタQ2を通って電流が流れますので、以下の式が成り立ちます。

\begin{eqnarray}
V_F+V_{R8}+V_{CE(sat)} & \leq & 0.7 \rm V \\
V_F+V_{R8} & \leq & 0.665 \rm V \\
V_F+I_F \times 10\ k \Omega & \leq & 0.665 \rm V
\end{eqnarray}

ダイオードの温度によってこの不等式を満たす\(I_F\)は変わるのですが、今回は一旦常温25℃時のVF-IF特性をもとにすると、\(I_F=0.02 \ {\rm mA}\)となりました。

抵抗R2の設定

トランジスタQ2がターンオンしているとき、抵抗R1、R2を通ってトランジスタQ2のベースへ流れていきます。ここで、双安定マルチバイブレーターの基本は左右対称ですので抵抗R1=1kΩに設定しておきます。

すると、以下の式で概算できます。

\begin{eqnarray}
(R1+R2)\times (0.3\ {\rm mA} + 0.07\ {\rm mA} + 0.02\ {\rm mA})\ =\ 9.0\ {\rm V}-0.7\ {\rm V}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
R2 &=& \frac{9.0\ {\rm V}-0.7\ {\rm V}}{0.39\ {\rm mA}}-1\ k \Omega \\
& \simeq & 20.3\ k \Omega
\end{eqnarray}

よって、R2=20kΩに設定します。

抵抗R2の消費電力\(P_{R2}=(0.39\ {\rm mA})^2 \times 20 \ k \Omega \simeq 3.0\ {\rm mW} \)となるので1/4Wのもので十分です。

抵抗R3、R5、R7の設定

双安定マルチバイブレーターは基本的に左右対称の回路ですので、抵抗R3、R5、R7の抵抗はそれぞれR3=20kΩ、R5=10kΩ、R7=10kΩ1/4Wのものにします。

抵抗R10の設定

トランジスタQ2がターンオフしているときは、点bからトランジスタQ1、Q3のベースに電流が流れていきます。ここまでの設計から、\(I_{R10}=0.39\ {\rm mA}+0.3\ {\rm mA} = 0.69\ {\rm mA}\)となります。

ここで、点bの電圧は\(V_b=9.0\ {\rm V}-(0.69\ {\rm mA} \times 1.0\ k \Omega ) = 8.31\ {\rm V}\)となります。

トランジスタQ3のベース電流は0.3mA、ベースーエミッタ間電圧は0.7Vであることから抵抗R10は以下の式から計算できます。

\begin{eqnarray}
R10&=&\frac{8.31\ {\rm V}}{0.3\ {\rm mA}} \
&=& 27.7\ k \Omega
\end{eqnarray}

よって、R10=27kΩにします。

消費電力は\(P_{R10}=(0.3\ {\rm mA})^2 \times 27 \ k \Omega = 2.4 \ {\rm mW}\)となるので1/4Wのもので十分です。

抵抗R9の設定

抵抗R9は単純なプルアップ抵抗ですので、あまり多大な電流が流れないようR9=10kΩのものにします。

コンデンサC1、C2の設定

コンデンサC1、C2については、理論で値を決めようとすると骨が折れるので、SPICEシミュレーションで適当な値に設定します。

金欠ぱとろん
金欠ぱとろん

実際に回路設計を行う現場でも、設計効率化の観点からシミュレーションで大体の値を決めてしまうのはよくある話ではないでしょうか。


今回はC1,C2=0.1uFのものにします。

また、端子間にかかる電圧は最大9Vですので16V耐圧品にしました。

3

LTSPICEでシミュレーションする

今回もLTSPICEを利用してシミュレーションしていきます。

ここまで設計してきた回路をLTSPICEに作成しました。

そして以下がシミュレーション結果です。

LEDであるD5に電流が流れたり切れたりを繰り返しているので、意図した動きになっていそうです。

ちなみに、実際にはC1とC2の静電容量をこのタイミングで決めてます。

4

評価基板を作製する

さあ、それでは実際に評価基板を作製していきます。

まずはざっと配置と配線を決めていきます。

最近はFritzingというソフト(無料)で以下のように大体の配線を決めてから作業にとりかかっています。

これで手戻りを大幅に減らすことができます

そして、この図を参考にして、はんだ付けまで終わったのがこちら。実装していくときにちょっと配置変えました。

基板へ実装完了

ほんとはチェックピンの色を9VGNDで変えたいところですけど、苦し紛れにマジックで書いて誤魔化してます。

そしたら火入れしてみます。

ちゃんと動きました!

スイッチを押すたびにLEDが点いたり消えたりしてくれてますので問題なしです!

安定化電源の電流計も、LEDが光ったときに10mAくらい増えてますので、これも設計通りに動いてくれていそうです。

やっぱり思い通りに動いてくれたときってすごくうれしいですね。

☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ

5

まとめ

ちゃんと動いてくれるか不安でしたが、設計通りに動いてくれてよかったです。

単純な回路かもしれませんが、やっぱり自分で設計して生み出した回路が思い通りに動いたときの喜びは格別ですね。

それでは、この記事がモノづくり好きな仲間を増やすキッカケになることを祈って。

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ABOUT ME
金欠ぱとろん
金欠ぱとろん
ソフトウェアエンジニア
現役のエンジニアです。もともと回路が得意分野だったのに、なんやかんやあって今はソフトウェアの開発やってます。
電子工作DIY、エフェクター作り、ジャンク品の修理とか自分の好きなこと記事にしてます。
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