回路
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【誰でもわかる】無安定マルチバイブレーター[解説/設計編]

kinketsu
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バイポーラトランジスタについて学習を進めると、必ずと言っていいほど発振回路の例として挙げられているのが無安定マルチバイブレータです。

基本的な無安定マルチバイブレーターの回路は、抵抗コンデンサNPN型バイポーラトランジスタのシンプルな素子構成ですが、その独特の見た目に二の足を踏む人も少なくないでしょう。

金欠ぱとろん
金欠ぱとろん

なるべく理解してもらえるように書きました。

そこで本記事では、無安定マルチバイブレーターの動作解説、そして私なりの回路設計を行います。

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無安定マルチバイブレーターはこうやって動く!

下図が無安定マルチバイブレーターの基本的な回路です。

回路へ電源電圧(今回は9V)を印加すると、回路図上のVCE1、VBE1、VCE2、VBE2は下記の動作波形となります。

トランジスタにコレクタ電流が流れるとLEDが光る仕組みになっています。つまり、VCE1が0VになっているときはD1が、VCE2が0VになっているときはD2が光っていることになります。

それでは、電源ON時およびA~D時点の挙動を説明します。

電源ON

電源ON

Q1とQ2それぞれのトランジスタのベース-エミッタ間に電圧が印加され、ベース電流が流れます。このとき、トランジスタや抵抗にはバラつきがあるので、どちらか一方のトランジスタが早くターンオンします。(仮に今回はQ1の方が早くターンオンしたとしておきます。)

A時点の動作

A時点の動作

トランジスタQ1がターンオンすることによってコレクタ電流が流れ、ダイオードD1が光ります。このとき、トランジスタQ1のコレクタがGND電位となるので、コンデンサC1の負極側の電位(=VBE2)が負電位( < 0V)になります。

これにより、Q2はターンオフし、コンデンサC2が充電されます。

一方で、コンデンサC1では矢印の向きに電流が流れ(放電され)ます。

コンデンサC2に充電し始めるとダイオードD2に電流が流れますが、徐々に満充電となり電流量が減っていくのでLEDは緩やかに消えていきます。

B時点の動作

B時点の動作

コンデンサC1の電荷の放電が進むと、負極側の電位が次第に高くなっていきます。一方、コンデンサC2は充電が完了していますので電流は流れなくなります。

C時点の動作

C時点の動作

コンデンサC1の負極側の電位(=VBE2) > 約0.6Vになると、トランジスタQ2がターンオンすることでコレクタ電流が流れます。すると今度はダイオードD2が光ります。そして、Q2のコレクタがGND電位となるので、コンデンサC2の負極側の電位(=VBE1)が負電位( < 0V)になります。

これにより、Q1はターンオフし、コンデンサC1が充電されます。

一方で、コンデンサC2では矢印の向きに電流が流れ(放電され)ます。

D時点の動作

D時点の動作

コンデンサC2の電荷の放電が進むと、負極側の電位が次第に高くなっていきます。一方、コンデンサC1は充電が完了していますので電流は流れなくなります。

実際の回路

このようにA~D時点の動作を繰り返すことで左右交互に通電させることができるのです。実際に回路として使用する際には、下図のように出力VOUT1、VOUT2を設けることが多いようです。

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実際に設計してみる

続いて回路設計を行います。といっても、回路は定まっているので、やることは素子の定数設計くらいのものになります。

回路仕様と定数

大体の回路の動き(仕様)を以下のように設定しました。なお、抵抗とコンデンサの静電容量は近い値のものを選定するので概ね1秒になればOKとします。

無安定マルチバイブレーターの仕様概要
電源電圧9.0 V
点滅周期1 秒
コレクタ電流10 mA

さらに、回路定数は以下のようにしました。

各素子の定数一覧
R1680 Ω 1/4W
R230 kΩ 1/4W
R330 kΩ 1/4W
R4680 Ω 1/4W
C133 uF 16V
C233 uF 16V
D13mm LED OS5RKA3131A
D23mm LED OS5RKA3131A
Q12SC1815
Q22SC1815

回路設計

LED選定

秋月電子通商さんで取り扱いのある3mm LED『OS5RKA3131A』を使用します。どんなLEDを使用しても問題ありません。

トランジスタ選定

トランジスタQ1とQ2はともに2SC1815を使用することにします。今回は特にこだわらず定番のNPN型バイポーラトランジスタです。

コレクタ電流の設定

コレクタ電流はLEDを点灯させることができる程度流せればいいので10mAにします。このときのコレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)は、データシートより最小0.035V(@-25℃)となります。

加えて、LEDの順方向電圧VFはデータシートより1.95V(@10mA)となります。

ベース電流の設定

2SC1815のデータシートからIC-hFE特性を見ると、コレクタ電流IC=10mAに対し最小でhFE=100(@-25℃)なので、この値で設計すればドライブ不足となることはなさそうです。

また、トランジスタを増幅用途ではなくスイッチング用途で使うので、飽和領域で動作するようベース電流は多く流します。これをオーバードライブといい、ベース電流を通常の3倍にして流すのがお決まりになっています。

コレクタ電流をIC、ベース電流をIB、直流電流増幅率をhFEとおくと、

\begin{eqnarray}
I_B &=& 3\times \frac{I_C}{h_{FE}} \\
&=& 3\times \frac{10\ {\rm mA}}{100} \\
&=& 0.3\ {\rm mA}
\end{eqnarray}

となるので、ベース電流IB=0.3mAにします。

なお、バイポーラトランジスタの特性について詳しく知りたい方は「Electrical Information」さんの記事をおすすめします。

あわせて読みたい
【外部リンク】バイポーラトランジスタの『出力特性』と『飽和領域、活性領域、遮断領域』について
【外部リンク】バイポーラトランジスタの『出力特性』と『飽和領域、活性領域、遮断領域』について
抵抗の設定

設計するマルチバイブレーターは一定周期で動作させるので、R1とR4、R2とR3は同じ抵抗値にします。

R1(とR4)は、LEDの電圧降下をVF、コレクタ-エミッタ間飽和電圧をVCE(sat)とすると、

\begin{eqnarray}
R1 &=& \frac{9.0\ {\rm V}-V_{CE(sat)}-V_F}{10\ {\rm mA}} \\
&=& \frac{9.0\ {\rm V}-0.035\ {\rm V}-1.95\ {\rm V}}{10\ {\rm mA}} \\
&=& 701.5\ \Omega
\end{eqnarray}

となるので、E24系列で最も近い680Ωを使用することにします。

また、消費電力は\(P_{R1}=(0.01\ {\rm A})^2\times 680\ \Omega=68\ {\rm mW}\)なので1/4Wのもので十分です。

次に、R2(とR3)はベース電流0.3mAを流すために、

\begin{eqnarray}
R_2 = \frac{9.0\ {\rm V}}{0.3\ {\rm mA}} = 30\ {\rm k\Omega}
\end{eqnarray}

より同じくE24系列で30kΩを使用することにします。

また、消費電力は\(P_{R2}=(0.0003\ {\rm A})^2\times 30\ {\rm k\Omega}=2.7\ {\rm mW}\)なのでこちらも1/4Wのもので十分です。

コンデンサの設定

※回路の過渡現象に関する話になりますので少々難しいです。

A時点でQ2がターンオフしたときには、VBE2が-9Vとなりますが、抵抗R2を通ってコンデンサC1が充電され徐々に電圧が上昇していきます。

このときの上昇の仕方は、-9V⇒9Vにかけて充電されるRC直列回路の動作になります。

したがって、

\begin{eqnarray}
V_{BE2}(t) = 18.0(1-e^{-\frac{1}{C1 R2}t})
\end{eqnarray}

のような式になります。

しかし、実際にはVBE2 ≒0.6VになるとQ2がターンオンして状態が切り替わりますので、半周期(=0.5秒)でVBE2 ≒0.6VになるようコンデンサC1を設定すれば良さそうです。

VBE2 ≒0.6Vというのは、-9V基準でみると9.6V分の上昇に見えますので、

\begin{eqnarray}
9.6 = 18.0(1-e^{-\frac{1}{C1 R2}t})
\end{eqnarray}

と定式化することができます。これを変形していくと、

\begin{eqnarray}
1-e^{-\frac{1}{C_1 R_2}t}&=&\frac{9.6}{18.0} \\
e^{-\frac{1}{C_1 R_2}t}&=&1-\frac{9.6}{18.0}=\frac{7}{15}
\end{eqnarray}

この両辺に対して\({\rm log_e}\)をとると、

\begin{eqnarray}
\log_e e^{-\frac{1}{C_1 R_2}t} &=& \log_e \frac{7}{15} \\
-\frac{1}{C_1 R_2}t &=& \log_e 7 – \log_e 15 \simeq -0.76 \\
\frac{1}{C_1 R_2}t &=& \log_e 7 – \log_e 15 \simeq 0.76
\end{eqnarray}

これをC1について解くと、

\begin{eqnarray}
C_1 &=& \frac{1}{0.76R_2}t \\
&=&\frac{1}{0.76\times 30000}\times 0.5 \\
&\simeq& 22\ {\rm uF}
\end{eqnarray}

となるので、コンデンサC1は22uFのものを使用することにします…といいたいところですが、手元に33uFしかなかったのでこれを使用します。(まぁ計算上0.5秒くらい周期が伸びるでしょうけどね。)

コンデンサの耐圧は16Vのもので問題ありません。

また、一時的にコンデンサには逆電圧がかかりますが、どれでも概ね1Vくらいの耐圧はあるそうなので気にする必要はなさそうです。

したがって、C1、C2ともに33uF 16Vの電解コンデンサを使用します。

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まとめ

本記事では、無安定マルチバイブレーターの動作解説と回路設計の仕方を見ていきました。

自作の評価基板レベルでここまで設計する必要はないかもしれませんが、なんとなく設計の風味を味わっていただけたらなと思います。

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金欠ぱとろん
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ソフトウェアエンジニア
現役のエンジニアです。もともと回路が得意分野だったのに、なんやかんやあって今はソフトウェアの開発やってます。
電子工作DIY、エフェクター作り、ジャンク品の修理とか自分の好きなこと記事にしてます。
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